文: 毛玉おにぎり
毎日の通勤電車。
いつもと変わらない電車に乗って、そこまで変わり映えしない仕事を淡々として、ちょっとだけ残業して帰る。
普通の平穏な毎日も好きなのだけれど、少しだけ日常に変化が欲しい。
朝の通勤電車に揺られながらぼんやりとそんなことを考えていた時、目に飛び込んできたのは窓の外の看板だった。
~ ペットロボット譲渡会。珍しいモデルもあなたをお待ちしています! ~
そういえば、今、忙しい現代人向けにお世話のしやすいペットロボットがささやかなブームになっているという話をネットニュースでも見かけたことがあった。
珍しいモデル……犬や猫じゃないってことよね。
少しだけ興味を惹かれた私は、降車駅に着くまでの間、ちらっとだけ見えた会場名をもとに開催情報を検索していた。
今、忙しい現代人向けにお世話のしやすいペットロボットがささやかなブームになっており「少しでも日常に変化が欲しい!」と思った私は、譲渡会の開催日を楽しみにしていた。
そして、とうとうその日がやってきた。
譲渡会場に着くと、会場内はそこそこ賑わっていた。
会場内を一通り回ってみたが、確かに普段街中などで見かけることがないモデルの子たちが多かった。
ヘビやフクロウ、イノシシやライオン。
それに……ドラゴン!?
小型犬くらいの大きさのドラゴン型のペットロボットを目にして、思わず足を止めてしまった。
そうか。別に現実の動物じゃないといけないわけじゃないんだ。
つぶらな瞳でこちらを見返してくるドラゴン型のペットロボットはフォルムも丸っこく、ドラゴンと言われてイメージされそうな厳かで強いイメージとは、ちょっとこの子には失礼かもしれないけれど、まったくの真逆のデザインだった。
少し遠くの方でしゃがんでみると首を傾げたあと、可愛い鳴き声をあげながらペチペチとこちらに近づいてきてくれた。
近くに居るスタッフさんに撫でてもいいか確認をすると二つ返事で快諾をいただけたので、恐る恐る頭を撫でてみた。
頭のてっぺんは少しひんやりしてるけど、背中のあたりは温かい……。
撫でられるのが気持ちが良かったのか、ドラゴンちゃんは手をパタパタさせながらほっぺたをスリスリしてきてくれた。
か、かわいい!
「あら、ドラネッツは少しプライドが高くて懐いてくれるまで時間がかかる子が多いんだけど、その子あなたにベッタリねぇ」
さっきのスタッフさんが笑顔でそう言ってくれたことでようやく気づいた。
この子の名前は「ドラネッツ」
ちょっぴりプライドが高くて、でも私には懐いてくれるとっても可愛いドラゴンの子。
もう、私の心は決まっていた。
「この子を譲って下さい!」
そういうと、スタッフさんは先ほどよりも大きな笑顔でお迎えの手続きについて話をしてくれた。
一応この子は家電(?)扱いのようで利用者登録が完了してから自宅まで送ってくれるそうで、必要事項を記載しているとドラネッツがヨチヨチとどこかに向かっているのが横目に映った。
何してるんだろうと見ていると、卵みたいな形の機械に向かっているようだった。
「ああ、それが充電器を兼ねたドラネッツのお家なんですよ。ご自宅にもこの卵の中で揺られながらお送りしますよー」
なるほど。お家付きはちょっと嬉しいかも。
スタッフさんの話を聞き終えてもう一度ドラネッツを見ると、ちょうど目が合った。
どうやら私が自分をお迎えすることが聞こえていたのか、こちらに軽く手を振ってくれて、そのまま卵の中に帰っていった。
どうやら到着は来週らしい。
ドラネッツと一緒に過ごす日々に想いを馳せながら、譲渡会場を後にした。
またね、ドラネッツ!